koyaのひとり読書会『カオスなSDGs』

環境問題などの重要性を感じながらも、レジ袋有料化や紙ストローの導入、そしてSDGsバッジなどの取り組みに、モヤモヤしている人は少なくないのではないか。

本書『カオスなSDGs』はこうした言葉から始まる。どうしてモヤモヤが残るのかといえば、我々大人というのは、キレイゴトの向こう側に子供には説明しにくい「大人の事情」というものがあるとわかっているからだ。だから、会社がSDGsの活動といえば、モヤモヤしながらもとりあえず従っている。そんな人も決して少なくはないだろう。本書の著者もその一人である。京都大学の教授を務める著者は、ある日学内でのSDGs活動の旗振り役をお願いされる。本書はそんな著者が学内の活動の中で感じたことをまとめたものである。

SDGsと聞いて一番に連想されるのは「環境問題」だろう。しかしSDGsの活動には「ジェンダー平等を実現しよう」や「人間らしい雇用を促進する」といったものもある。残念ながらいずれも日本に課題があることは確かだろう。しかし、これらは注目されずになぜか「環境問題」だけがフォーカスされている。また、その環境問題にしても、日本では多くの人々が環境問題に関心を寄せている反面、それに対する理解が深いとは言い難い。本書によれば、脱プラスチックやプラゴミ処理の問題にしても、それが地球環境の持続可能性を高まるのにどう役立つのかを深く考えずに、行動だけが先走っているように感じると指摘している。試しにプラスチックの処分方法として、「焼却処理」「埋め立て」の2つがあるがどちらがサステナブルか考えてみてほしい。うまく説明ができるだろうか。

それにしても、著者がSDGs活動の旗振り役に選ばれた理由が面白い。最近の学生は、1〜2年生から就職活動を始める子も多く、特にSDGsのようなものに積極的な学生には多少なりとも純粋なところがあるので(それは決して悪いことではない)、学校職員としては、その動機や行動を否定したくないという気持ちがある。しかし、大学生は小学生とは違うので、キレイゴトの裏にある「大人の事情」も知らなければならない。そこで学生たちの理想と現実のバランスを取るためにも、著者のような捻くれた教員が引き入れられたというわけだ。まさにこれも大人の事情というやつだろう(笑)

さてこの書評をどう締め括ろうかと考えていたが、ふと、Appleのスティーブ・ジョブズの「素人であり続けること」という言葉を思い出した。ジョブズはよくAppleの社員に対して「素人のように考えろ」と言っていたそうだ。これには逸話があって、その昔、全ての家電は使う前に充電する必要があったそうだが、ジョブズの「われわれのプロダクトではそんなことは許さない」という言葉から、iPodは充電された状態で出荷され、その後、ほとんどの家電において充電した状態で出荷することが、業界のスタンダードになったという話がある。本書の著者も大学の未来に危機感を抱き「京大変人講座」を開講している。「変人になれ」というのは、言い方が違うが、ジョブズの「素人のように考えろ」と同じような意味だろう。少し脱線したが、本書には、まさにSDGsというものを変人のように考えた結果、どうなったかが書かれている。

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koya
読書歴10年。書評歴3年。本は読んでいるだけではダメです。 知識はアウトプットしてこそはじめて血肉となります。 私は読書歴10年ほどで、現在は毎月平均して10冊程度の本を読んでいます。 私がこの10年間で培ってきた読書のノウハウや考えは、きっと皆さんの役に立つと思っています。 目標は「他人が読まない本を手に取る読書家を増やすこと」です。
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