読書日記 『トマ・ピケティの最新作』

21世紀の資本』では「r > g」の不等式で衝撃を与えた経済学者のトマ・ピケティ。本書『自然、文化、そして不平等』はそんな著者による最新作だ。「r > g」が表すのは、富める者はより豊かに、持たざる者は働けどもより貧しくなるという不都合な真実である。
本書は、2022年の講演を基に書かれたようだ。内容としては100ページもないのですぐに読み終えることができる。
トマ・ピケティの最新作と聞いて『21世紀の資本』くらいの分厚い本をイメージしていた人はひっくり返るかもしれないが(笑)(ちなみに21世紀の資本は728ページである)

本書の内容は、経済学者らしく比較表を多用して、所得格差を国ごとに分析している。同じような性格の国でも、文化、政治、歴史により富の分配が大きく異なることが明らかになっている。中でも平等の実現には、制度構築と機会の創出に大きく懸っているようだ。つまり、平等を実現する真の原動力となるのは、参政権をはじめとする市民の政治、社会参加であり、また制度を構築し機会を創出する国家の能力であるという。

政治がそれほど重要であるのにそうした実感が湧かないのは、今日の日本の状況を強く表しているだろう。日本の政治の実態を知りたければ『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?』という本を読むことをオススメする。こちらは50代、単身、フリーランス、貯金なしのライター・和田靜香さんと、映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』で話題の小川淳也議員による、真剣勝負の政治問答を収めた本であるが、政治本としては異例のベストセラーを記録しており大変読みやすい本だ(私の書評はこちら)。

さて話は戻るが、日本ははたして平等なのだろうか?多くの人の答えはもちろんNOだろう。本書によれば、日本は所得上位10%が国全体の所得に占める比率が、42%〜47%となっているそうだ。これは最も平等に近い北欧では20%~30%、最も格差が激しいアフリカ南部では70%であるので、日本はちょうど中間あたりに位置している。一方で、資産の格差はというと、いずれの国でも上位層と下位層に大きな格差が生じているようだ。これがピケティがよく言う、富める者はより豊かに、持たざる者はより貧しくなるという冒頭の言葉の根拠でもある。

経済成長の原動力となるものとして、本書では教育の重要性を挙げている。
そう、やはり教育は重要なのだ。20世紀半ばまで、アメリカは他の先進国に比べて卓越した教育の優位性を保っていた。1950年代であるが、アメリカでは該当の年齢層の90%が高校に進学したのに対し、日本では20%に過ぎなかったという。
しかし、今では大学進学も当たり前になった日本であるが、経済成長率は鈍化し続けている。私たちに必要な教育とは一対どのようなものか。それは、自ら問いを立てられるような人間を作る教育だろう。GoogleやChatGPTは検索したワードに対する答えは教えてくれるが、そもそも何を検索するばよいかまでは教えてくれない。今求められているのは問いを考えられる人間なのだ。

ChatGPTの本ならこちらもオススメである。大規模言語モデルについてわかりやすく書かれた本。

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koya
読書歴10年。書評歴3年。本は読んでいるだけではダメです。 知識はアウトプットしてこそはじめて血肉となります。 私は読書歴10年ほどで、現在は毎月平均して10冊程度の本を読んでいます。 私がこの10年間で培ってきた読書のノウハウや考えは、きっと皆さんの役に立つと思っています。 目標は「他人が読まない本を手に取る読書家を増やすこと」です。
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