読書日記 「同性愛は自然なのか」

最近、性の多様性についての本が増えているように感じるが、本書『進化が同性愛を用意した』のように真っ向から同性愛について取り上げている本は珍しい。

自然界において同性愛は珍しいものでは決してない。ごくごくありふれた光景である。本書によれば、1500種を超える動物で、同性間の性行動が観察されている。さらに、マスターベーションや、妊娠期の性行動など、繁殖に結びつかない性行動を見せる動物もいる。このことは、性行動には生殖の役割のみならず、コミュニケーションの役割もあることを裏付けている。

同性愛についての日本の歴史はどうなっているだろう。
現在、日本人は性的に奥手であるいうイメージがすっかり染み付いている。ある調査では、東アジア諸国全体的に性交頻度が少ないが、日本はその中でも群を抜いているという。しかしながら、日本人の「非性交化」はここ数十年で急速に進んだものだ。かつて、この国の人々の異性愛及び同性愛の奔放さは、戦国時代や江戸時代に日本を訪れた西洋人を驚かせたという。奈良時代末期に編纂された『万葉集』にも、男性同士の恋愛を連想させる歌が何首か見られる。さらには、武士でも僧侶でも、その多くは大人の男性とそれを受け入れる若年の男性との間で一対一の排他的な恋愛関係が持たれたようだ。
本書では「異性との接触が少ない環境で、同性同士長く一緒に過ごしている」などの条件下では、同性間性行動が頻繁に見られることを示唆している。これはヒト以外の生物とも共通している。

本書が素晴らしいのは「多くの動物がそうだから、それはヒトにも当てはまる」という安易な姿勢に注意を促していることだ。仮に動物の行動を手本にしたくても、行動パターンは種や状況によって千差万別であるので、簡単に法則を見出せるはずもない。しかし、多くの人は、必然的に自分の主張したい目的に当てはまる部分を切り取って権威付けに使ってしまっているのだ。このような姿勢は、これまでの歴史を見ても、優生学などがもたらした惨禍に現れている。

以前、『射精責任』という本を紹介したが、性教育という観点で子供たちにも読んでほしい、そんな一冊であった。本書も同様である。特に日本の歴史において、先述した万葉集や武士や僧侶の世界で広くそうした行動が見られたというのはとても驚きであった。こうしたことを学校教育で取り上げるのには抵抗がある人も多いだろうが、私は知っておいてもいい知識だと思う。性については、他にも『オスとは何で、メスとは何か?』という本も興味深い。ぜひ一緒に読むことをお勧めしたい。

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koya
読書歴10年。書評歴3年。本は読んでいるだけではダメです。 知識はアウトプットしてこそはじめて血肉となります。 私は読書歴10年ほどで、現在は毎月平均して10冊程度の本を読んでいます。 私がこの10年間で培ってきた読書のノウハウや考えは、きっと皆さんの役に立つと思っています。 目標は「他人が読まない本を手に取る読書家を増やすこと」です。
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