【書評】『ルポ海外出稼ぎ』

本書は、NHK「クローズアップ現代」取材班による、円安が進んだ「安い日本」から海外の「稼げる国」を目指す若者たちに迫ったルポである。なぜ彼らは日本に見切りをつけて海外で生活することを選んだのだろうか。

彼らの多くが利用する制度が、ワーキングホリデー制度(以下、ワーホリ)である。ご存知の方も多いと思うが、ワーホリとは、原則1年間を期間として、主に18歳〜30歳の若者が海外での生活を体験できる制度である。就労ビザがなくても、一定の就労が認めれているため、現地で働く若者が多い。ワーホリを使ってオーストラリアで農作業に従事する若者は、日給で約2万円ほど、ひと月で50万円を稼ぐこともあるというから驚きである。

そんなワーホリを利用する若者の多くは、理学療法士や美容師など、すでに手に職がある人々で、そうした安定した仕事を辞めてまで海外にやってきているという。本書には、実際にワーホリを使って海外で働いている若者たちが紹介されている。本書評でも特に気になった内容を紹介しよう。

まずは、国家資格を取得して臨床検査技師として働く女性だ。彼女は苦労して取得した国家資格の割に低い給料と職場環境への不満を口にしている。

意外と検査技師のお給料ってそんなに高くないんです。一応、看護師とか医者と同じ国家資格ですけど、普通の社会人の一年目の給料とそんなに変わらないんですね。それで『あれっ』と思って。…(中略)…いろんな部署を経験してきて、先輩を見てきて、きっと自分もこういうふうにステップアップしていって、将来ここ(の部署)に行ったらこんなふうになっていくんだろうなっていうのが、5年、10年働くと見えてくるところがありました。

彼女のように「なんか違うな」と思っている若者は多いだろう。どれだけ頑張っても給料は上がらず、一方で責任は増えて就業時間も長くなる。このまま先が見える人生を進むのか、どうなるわからないけど挑戦して何か得られるものがある人生を歩むべきなのか。彼女は年齢的にギリギリとなったタイミングでワーホリに行くことを決意したそうだ。

そして、不動産業界の営業として働く男性は、日本では環境を変えることに対して大きな壁があると語る。

例えば僕は営業部だったんですけど、広告とか、マーケティング部とかに『行きたいです』と言っても、『そのスキルないでしょ?』って言われちゃうんですよね。ないから行きたいのに、行けない。会社を変えるとなっても、やっぱりスキルがなかったら転職できないですし、25とか26を超えてくると、それだけで、日本の中だと見方が変えられちゃうというのがある。

スキルがなければ社内でポジションを変えることさえ難しい。ましてや、転職においては、希望する職種の経験が最低3年なければ相手にもされないだろう。そんな私も人事の仕事をしていた時に、営業職へ転職しようしたことがあるが、そのハードルの高さを痛感したことがあるから彼の気持ちはよく理解できる。

若者たちの海外渡航の何が問題だろうか。むしろ海外で活躍する若者が増えることは喜ばしいことではないだろうか。

一番の問題点は、日本は少子高齢化で働き手が少なくなってきていることと、慢性的な円安による外国人労働者不足に拍車がかかっていることだ。

日本で働く外国人労働者のうち最も多いのが、全体の4分の1を占めるベトナムからの人々だ。しかし、このベトナムでは、2022年にGDP(実質国内総生産)成長率約8%と15年ぶりの高成長を記録しており、日本の経済成長が低迷していることを考えれば、今後、ベトナムの人たちにとって日本で働くメリットは相対的に低下していくことが予想される。

少子高齢化が進む日本にとって外国人労働者は大切にしなければならない存在である。しかし、そんな外国人労働者への対応にも課題が山積みなのが日本の現状だ。そこに拍車をかけるのが、先述した若者たちの海外流出である。さて何から解決するべきなのだろうか。本書を読んで一緒に考えてみてほしい。

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koya
読書歴10年。書評歴3年。本は読んでいるだけではダメです。 知識はアウトプットしてこそはじめて血肉となります。 私は読書歴10年ほどで、現在は毎月平均して10冊程度の本を読んでいます。 私がこの10年間で培ってきた読書のノウハウや考えは、きっと皆さんの役に立つと思っています。 目標は「他人が読まない本を手に取る読書家を増やすこと」です。
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