【書評】『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』

本書は、新型コロナウイルスのワクチン(mRNAワクチン)を開発し、世界を救った女性研究者カタリン・カリコ氏の半生を描いた本です。
カリコ氏の研究への情熱の原点である幼少期のことから、当時のハンガリーの政治状況、家族に対する愛情などがうまく描かれていてとても読みやすいです。
そして、本書の後半には、RNAワクチンの解説がありますが、それが本当に秀逸です。
ワクチンの有効性や安全性、副作用と副反応の違いまで、実に簡潔で分かりやすく解説されていて、どのワクチン解説本よりもスッキリ理解ができました。

mRNAワクチンとは何か

本書を紹介するなら、やはりみなさんが気になっていることを紹介したいと思います。
「mRNAワクチン」のことです。
では、そもそもmRNAとは何でしょうか?
本書の解説がすばらしいので、少し長いですが引用します。

体内には無数の細胞があって、一つひとつの細胞の中には核がある。この核の中にあるのがDNAだ。DNAは体の設計図であり、とても大切なのもの。普段そのままで使うことはない。では、どうやって使うのか。そこで登場するのがmRNAだ。mRNAは、DNAの情報をコピーとして使う役割を担っている。コピーした情報を核の外にあるリボソームに届け、情報を読み取ってもらってタンパク質を作る。

mRNAを利用することで、意図したタンパク質を作ることが可能となります。
ここでいうmRNAは、人工的に作られたものです。
そして、いまではすっかりお馴染みとなった、新型コロナウイルスのトゲトゲした突起もタンパク質でできています。
mRNAを使えば、新型コロナウイルスと同じ突起を持ったタンパク質を作ることが可能です。
このmRNAが身体に入ると、まさに新型コロナウイルスの感染と近いことが起こりますが、それは免疫反応が出るというだけで、ほんとの病気になることは決してありません。
これがmRNAワクチンのカラクリなのです。

世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコの半生

本書のメインはあくまでカリコ氏の半生です。
カリコ氏は、当時ソ連の影響下にあったハンガリーから家族3人アメリカにわたり、知り合いもお金もない状況からスタートし、いまや世界の誰もが知る科学者になろうとしています。
そんなカリコ氏のモチベーションは、やはり「科学が好き」ということに尽きます。

君の労働時間を時給で換算したら、1時間1ドルだ。マクドナルドで働いたほうがずっと時給が高いぞ

いつも驚くほど探究心がいっぱいで、ものすごい読書家。常に最新の技術や最新の発表を読み込んでいて、その内容は専門分野だけでなく他の分野にも及んでいた。

まだまだエピソードがありますが、カリコ氏の科学好きの原点は、ハンガリー時代の教育にあります。
高校時代は生物学研究サークルに参加し、そこでは世界的に有名な科学者である先輩たちと文通をすることができました。
世界的な論文に対して直接質問することができたり、日常の他愛もない話をしたり、なんでも話すことができました。
そうした経験は、科学者としてだけでなく人間としても大きく成長する機会を与えてくれたといいます。
カリコ氏の謙虚な人柄はこうした経験からきているのだと実感ができます。

カリコ氏に迫った唯一の本

現時点では、本書は、新型コロナウイルスのワクチン(mRNAワクチン)を開発した女性研究者カタリン・カリコ氏に迫った、唯一の本です。
今後、カリコ氏の人柄や世界への貢献度をみれば、ノーベル賞を取ることもそう遠くはないでしょうから、いずれはカリコ氏に関する類書は多く出版されると思います。
本書は、新型コロナウイルスのワクチン誕生秘話を知る、はじめの1冊としてとても読みやすく、多くの人におすすめです。

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koya
読書歴10年。書評歴3年。本は読んでいるだけではダメです。 知識はアウトプットしてこそはじめて血肉となります。 私は読書歴10年ほどで、現在は毎月平均して10冊程度の本を読んでいます。 私がこの10年間で培ってきた読書のノウハウや考えは、きっと皆さんの役に立つと思っています。 目標は「他人が読まない本を手に取る読書家を増やすこと」です。
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