『量子テレポーテーションのゆくえ』は、量子コンピュータ、量子通信、量子暗号など、さまざまな技術応用への可能性を秘めている「量子もつれ」などの現象について、数式を用いずに広く一般の読者へ向けてわかりやすく解き明かした本である。
著者のアントン・ツァイリンガーは、オーストリアの物理学者で、1997年、世界で初めて光子の量子テレポーテーションの実験を成功させたことで知られる量子情報研究の先駆者である。2022年には「量子もつれ状態の光子を用いた実験によるベルの不等式の破れの実証と、量子情報科学における先駆的研究」で他研究者と共同でノーベル物理学賞を受賞している。本書はツァイリンガー自身が量子情報科学の基礎を徹底的に解き明かし、今後の展望を語り尽くす最良の入門書である。
「量子もつれ」とは何か?それを説明するのは難しいが、例えば、AとBの二人が互いに「量子もつれ状態」だったと仮定しよう(ここではわかりやすく量子を人に例える)。この二人が立つか座るかのどちらかの姿勢を取りうるとした場合、片方のAさんが立っている場合、必ずBさんも同じ姿勢(ここでは立っている)を取る。興味深いのは、二人を観測するまでは立つか座るかのどちらの姿勢を取るかはわからない。観測されて初めてどちらかの姿勢を取る(常に二人同じ姿勢になる)。つまり二人はどちらの姿勢も取りうる状態で存在しているということだ。
この量子が持つどちらの状態も取りうることを、量子の「重ね合わせ」という。この量子の「重ね合わせ」という性質は、量子コンピュータに利用されている。従来のコンピュータで論理回路を構成するのは、トランジスタだ。トランジスタは、電流を流したり流さなかったりするスイッチであり、それにより「0」「1」のどちらかの状態だけを表す(これを古典ビットという)。これに対して量子ビットでは、「0」「1」の状態を同時に取る「重ね合わせ」により古典ビットよりも効率よく計算することができる。
さて私による拙い説明はこれまでだ。
なお、量子力学に関する本については『量子コンピュータが人工知能を加速する』もお勧めである。
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