読書日記 「船舶のDX化がとても面白い」

2016年10月、Uber傘下の企業オットーが開発した自動運転トラックが、コロラド州の高速道路を120マイル(約193キロ)走行し、ビール200ケースを運んだというニュースが流れた。
まさに車の自動運転技術は日進月歩で進化していると言えるだろう。

では、船舶の方はどうか?実は海運事業のDX化がとても面白いことになっているのだ。

船舶のDXとは、つまり船上にサーバーが搭載され、船内のあらゆる情報がそのサーバーに集められるということである。集められたデータは、船内で見られることはもちろん、陸上の海運業者や船用メーカーにリアルタイムで送られ、何かトラブルが発生すれば、陸上で原因を解析して、船に対して迅速に復旧手順を提案、指示することができる。
そして、目指しているのは無人運航船の実現だ。実は、この無人運航船については、すでに世界一の輻輳海域(つまり最も混んでいる)ともいわれる東京湾と伊勢湾の間を無人運航で往復するというプロジェクトが実施され、往路で97.4%、復路で99.7%の無人航行率を達成しているというから驚きである。

本書『決して止まらない船』は、このプロジェクトの立役者であるBEMAC(ビーマック)という会社の社長を務める小田雅人さんによる一冊だ。

BEMACは、愛媛県今治市に本社を置く船用電機、電子機器メーカーである。船舶の電気工事というのは、さまざまな制限のあるスペースで行うため特殊と言われており、高い技術力が必要な世界だ。BEMACは、その分野で国内シェアナンバーワンを誇り、まさに電気工事のプロフェッショナルとして信頼を得ている会社である。船舶を電子化(DX化)させるのにこれほど打ってつけの会社は他にはいないだろう。

さらにBEMACが面白いのは、海運業界にDXを呼び起こそうとするその熱意である。海外や日本の優秀な人材を集めるために、なんと独身寮のリニューアルまで実施している。アメリカのブルックリンを彷彿とさせるその建屋は、専門書や自己啓発書など600冊の本をいつでも読むことができるライブラリーやスタディスペース、さらにトレーニングルームやキッチンスタジオまで、独身寮とは思えないほどの施設を整備している。「ちょっと豪華すぎない?」という声が聞こえてきそうだが、それくらい人材確保に力を入れているということでもある。

海上運搬が重要なのは、名著『コンテナ物語』を読んでいただければよくわかるだろう。
AmazonなどのECサイトでこれだけ安くものが買えるようになったのは、コンテナの登場により運送コストが大幅に下がったおかげなのである。
しかし、これほど我々の生活に密接な世界であるにも関わらず、DX化が遅れているということは由々しき事態である。
本書がたくさんの人に読まれることで、業界に興味や関心を持つ人が一人でも多く増えることを願っている。

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koya
読書歴10年。書評歴3年。本は読んでいるだけではダメです。 知識はアウトプットしてこそはじめて血肉となります。 私は読書歴10年ほどで、現在は毎月平均して10冊程度の本を読んでいます。 私がこの10年間で培ってきた読書のノウハウや考えは、きっと皆さんの役に立つと思っています。 目標は「他人が読まない本を手に取る読書家を増やすこと」です。
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