朝の4時に起きなければ間に合わない始業時間や、毎晩開かれるパートナーや顧客との接待(パーティ)・・・。
本書は、天下のゴールドマン・サックス(以下、GS)に長年勤務した元女性幹部社員による内部告発書である。
本書には、GS内で体験した男女差別やパワハラ、セクハラについて赤裸々に語られている。
桁違いの給料をもらう人々は、内面に異常さも兼ね備えていることがよくわかる。その中で出世していく人はどんな人間なのか。自らを堅物と評する著者は、どのようにしてトップ8%しかなれないと言われる役職にまで上り詰めたのだろうか。
著者がGSを退職したのは、2016年のことで、「MeToo運動」や「Black Lives Matter運動」など、様々な社会運動が起こる前のことだ。
読む人によっては、これはあくまで古い時代の話であって、現代は違うと思うかもしれない。しかし、それは考えが甘いというものだ。
確かに女性蔑視や不平等な扱いがあからさまに行われることはないものの、根底にある企業文化というのは、それほど変わっていないのが現実ではないだろうか。
本書を過去の話として片付けてしまうのは、早計である。
本書を読んで驚きだったのが、米国の企業といえば、フラットな組織文化を想像していたのだが、それは全くの間違いで、ガチガチな上下組織であるということだ。
著者が就いた役職クラスになれば、一回のボーナス金額が100万ドルもの大金に膨れ上がるが、それを決めるのは全てボス(事業部門のトップ)に一任されている。つまり、ボスに睨まれれば終わりということを意味している。
また、米国企業であっても、女性がキャリアップを図るのは容易ではないということがわかる。
ボスに気に入られるのは、いつも男性と決まっており、そのボーイズ・クラブ的なカルチャーに適応できるような人物である。
女性が昇進するためには、男性社員以上に男性社会の価値観に染まる必要があるのだ。
女性たちは、早くから”おつむの弱い〇〇”のようなレッテルを貼られ、入社から何年も経っているにも関わらず、いまだに入社時に貼られたレッテルで苦しんでいる女性も多い。
そして、女性に与えられた限られたポジションを巡って、女性同士で熾烈な競争を繰り広げなければならないのだ。
著者は、もともとソーシャル・ワーカーになる夢を持っていたそうだ。
しかし、苦労して貧困層から抜け出した両親の意向もあって、高い給料を貰えそうな職業ということで、運よくGSに就職することができた。
入社初日の懇親会の場でクスリをやるような同僚たちからは、ずっと堅物扱いをされてきた。そんな著者がGSで昇進できたのは、彼女が優秀であることはもちろんのことだが、数少ない同僚たちのおかげである。
マネージャーに昇格した初回の部下との面談で、ある男性部下に宣誓布告される場面が登場するが、同じく子育てをする部下の支援もあって、なんとか乗り切る様子が描かれている。
また、本書の中には、著者と上司との不倫話や、それが原因で夫との関係が一時的にかなり険悪になった経緯など、かなり赤裸々に書かれているものもある。
ネットでは、「ノンフィクションの自伝」というよりも、登場人物の言動もやや誇張され気味で、どちらかというとエンタメに近いという評価も散見される。
一方で、本書に多く見られた描写として、白人男性社員達が仕事のあと毎晩のように接待を開いて泥酔して、顧客との業務提携やM&Aの契約を交わして経済を回している様子は、おそらくリアルなのだろう。
いろんな評価があるが、社会の裏側を知る(社会勉強の)一冊として、また、仕事のモチベーションを上げてくれる一冊として大変おすすめだ。
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