【書評】『AI監獄ウイグル』これまでの監獄は未完成だった。AIがすべてを完璧にした。ウイグルジェノサイドの真相。

2016年に起こった世界的な大事件といえば、イギリスのEU離脱(ブレグジット)とトランプ大統領の当選である。

この2つの事件は、どちらもケンブリッジ・アナリティカ(CA)という会社が、フェイスブックから膨大な個人情報を盗み利用したことで実現されたものだ。
この世界分断の「立役者」となったCA元社員による告発本『マインドハッキング』は、世界に衝撃を与えた。

SNSは今や誰もが利用している。
サービスのURLを開き、簡単な質問に答えるだけで5分もかからずにアカウントを作ることができる。
そして、SNSでできることは無限大だ。
様々な人とつながり、実社会とは違う自分を表現することだってできる。

しかし、多くのSNS企業が「情報の非対称性」で膨大な利益を得ていることを知っている者は少ない。
私たちはSNSに投稿することで自分自身を表現している一方、自分が提供している情報にどれだけの価値があるかを理解していない。
今やその情報は、トランプをアメリカ大統領にさせたり、EUを分断させるまでに大きな力となっている。

本書は、こうしたテクノロジーの力によって、中国のある一部の地域で起きたジェノサイドについて書かれた本である。

本書はこんな人にオススメです!

✓ウイグル問題について知りたい
中国の「一帯一路」構想について知りたい
米中貿易摩擦の真相を知りたい
中国テクノロジー企業について知りたい

現代版のパノプティコン(全展望監視システム)

その地域とは、新疆ウイグル自治区だ。
新疆ウイグル自治区は、テキサス州のおよそ2倍の広さをもち、アフガニスタンやパキスタンと国境を接する中国最西端の地域である。

2020年フランス国民議会は、この新疆ウイグル自治区の中国政府による人権抑圧を「ジェノサイド(集団虐殺)」と認定する決議を可決した。
この動きには他の欧米諸国も続いている。

また、同自治区のウイグル人をはじめとするチュルク(Turkic)語系イスラム教徒少なくとも100万人が、強制労働収容所に入れられていると推測されている。

強制収容所と聞けば、一昔前の監獄をイメージするが、本書を読めばそのイメージはすぐに覆されるだろう。
ウイグル自治区に作られた強制収容所(再教育センターと呼ばれている)は、最新鋭のテクノロジーで支えられている。

途方も無い量の防犯カメラやセンサーが設置され、収集した膨大なデータを処理する最新鋭の顔認証・音声認証、そして、AI技術がインテリジェンスを支えている。
そして、その技術は、ファーウェイ、バイドゥ等、中国の世界的なテクノロジー企業が生んだものである。

まさに現代版のパノプティコン(全展望監視システム)の完成だ。
本書はSF小説さながらの驚愕の事実が満載の一冊である。

―目次―

なぜウイグルなのか
監視システム「スカイネット」の全貌
マイクロソフトとの関係
アメリカIT企業の「知的財産」を獲得する

終わりに

①なぜウイグルなのか?

2001年9月、ニューヨーク世界貿易センターのツインタワーが崩壊した時、1万キロ以上離れた北京の中国政府は、ひそかに独自の対テロ戦争を始めた。
その主要なターゲットとなったのが、新疆に住むイスラム系ウイグル人で構成される過激派集団だった。

中国は長きに渡り、歴史的にこの土地に住み続けてきた新疆の少数民族よりも、漢族の大集団のほうを優遇してきた。
こうした迫害を受けた何千人ものイスラム系ウイグル人男性たちが、アフガニスタンやシリアに渡り、イスラム国(ISIS)の関連集団による訓練・戦闘に参加して、いつか中国政府に対してジハードをしかけると誓った。
新しいテロリストたちは、やがて中国国内で、銃撃戦、暗殺、刃傷沙汰、飛行機ハイジャック未遂などを起こすことになった

中国のトップである習近平が掲げた「一帯一路」構想は、かつて中国と欧州を結んだシルクロードを模し、1兆ドル規模の道路、鉄道、港湾などインフラ整備を進める構想である。
「一帯一路」構想において、中国政府は、なんとしてでも世界が初めて中国に出会う場所の平和を実現する必要があった。
その場所が、新疆ウイグル自治区だったのだ。

②監視システム「スカイネット」の全貌

「怖がらせるだけではダメなんです」とマンスールは続けた。
「不確かな状況に置くことが、人々をコントロールするために有効な方法です」

新疆ウイグル自治区には、いたるところに監視カメラが設置されている。
ガソリンスタンドや食料品店に行くと、入り口に立つ武装警備員のまえで、IDカードをスキャンしなければならない。
カードをスキャンして、画面に「信用できない」と表示された場合、その人物は入店を拒否される。
さらに、スマートフォンやコンピュータでのやり取りは、中国政府によりハッキングされている。
中国では、FacebookやTwitter等のアプリは使用禁止だ。
その代わりとして、多くの中国人が利用するのが、中国大手IT企業テンセントが提供する微信(WeChat)である。

しかし、多くの中国の大手企業はすでに中国政府と手を組んでおり、あなたがやり取りした内容は政府に筒抜けである。
さらに、「Wi-Fiスニファー」と呼ばれるデバイスによって、Wi-Fiを利用したすべてのスマートフォンとコンピュータのデータが収集される。

これが、中国政府が実現した監視システム「スカイネット」の全貌だ。

③マイクロソフトの存在

「マイクロソフトは、中国の新しいテクノロジーの中心的な柱になったといっていい。わたしたちがこれまで何を成し遂げてきたのか、簡単な言葉で表現するのはむずかしいことです。

中国はなぜこうした監視システムを作り上げることができたのか?
それは米国テクノロジー企業による後ろ盾があったからに他ならない。

2000年当時、多くの中国人ユーザーは、道端で売られているマイクロソフト・ウィンドウズの海賊版をわずか数ドル程度で購入して使用していた。
ウィンドウズを世界均一の価格で売るというマイクロソフトの戦略は、中国では完全に破綻していたのだ。
マイクロソフトは、対抗策として、中国の裁判所で積極的に訴訟を繰り広げたが敗訴が続いた。

こうした経緯があって、ビル・ゲイツの指示のもと、設立されたのがマイクロソフト・リサーチ・チャイナという研究開発施設だった。

その研究施設は、のちにマイクロソフト・リサーチ・アジア(MSRA)と改名し、バイドゥ、アリババ、テンセント、レノボ、ファーウェイの経営幹部を初め、5000人以上のAI研究者を育てることになる。

こうしてMSRAを中心に中国に新たなエコシステムが生まれた。

このエコシステムのもとで、さまざまな企業が生まれては消えていった。
結果として、中国の起業家の多くは、欧米や日本の技術を猛スピードでコピー、模倣することで、世界で最も勤勉な起業家集団となった。

そして、この動きに目をつけたのが中国政府である。中国政府はインターネットに大きな可能性を見出していた。

アメリカIT企業の「知的財産」を獲得する

中国で生まれつつあるシステムを「(ファーウェイのような)成長著しい民間IT企業」「政府の研究開発機関と資金提供体制」「軍」からなる「デジタル・トライアングル」と呼んだ。
中国は、将来のニーズに合わせて再構成された斬新な軍産複合体を作り出そうとしていた。

MSRAの設立で中国は大きな技術的進歩があったにもかかわらず、まだ重要な問題が残されていた。
この時点で、中国テクノロジー企業はアメリカの模倣製品を広めているに過ぎなかったのだ。

次に狙うものは決まっていた。それはアメリカ企業が持つ「知的財産」である。

一方で、中国政府は、もっと自国民に関するデータを欲しがった。
先述した監視システム「スカイネット」では、ハードウェアもカメラも、システムを機能させるために必要なものはほぼすべてが揃っていた。
しかし、肝心な鍵となる要素が欠けていたのだ。
それは膨大なデータがなければ、顔認証技術やAIは、うまく機能することができないということである。

こうして、中国政府は、中国テクノロジー企業によるアメリカの「知的財産」の獲得を後押しすることにした。

通例として外国企業は、中国の閉鎖的な市場に参入するためには、現地の中国企業と提携しなければならない。
また、国家の支援を受ける中国企業には、外国企業と提携関係を結ぶときに、「強制的な知的財産の移転」をおこなう習慣があった。

無論、この習慣は世界貿易機関(WTO)のルールに反するものだ。

しかし、中国の14億人の潜在的な顧客にアクセスすることを望むアメリカ企業は、技術上の秘密をしぶしぶ中国側に渡したのだった。

⑤終わりに

本書では、他にも、北京の有名大学出身でトルコの大学院で勉強していたメイサムという優秀なウイグル人女性が、政府の敵とみなされ、強制収容所送りになる話など、驚愕の事実が多く登場する。

しかし、最も恐ろしいのは、人々の不安を煽る中国の戦略だ。

いかに素晴らしいAIや人工知能をもってしても、決まって欠点は存在するものだ。
新しいソフトウェアやデバイスは、多くの人が想像するほど効果的で賢くはなく、犯罪の容疑者をそう簡単には突き止められないことも多い。

しかし、ある方法によって、そうした技術的な弱点を強みに変えることができる。

それは、技術がどう機能しているか、その詳細を隠して見えにくくすることだ。
そうした不確かな状況に人々を置くことで、システムの中にいる人は、自分の家族までも信用することができなくなる。

これが中国政府がとった戦略なのだ。

本書は、読んだら最後、もう日常には戻ることができない。
まさに読んだ手が止まらない一冊だ。

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