2022年2月24日、ロシアはウクライナへの侵略を開始し、世界は大きく動揺した。
ウクライナ侵攻を支持した71歳のプーチン大統領は、2000年に大統領に就任してから、20年以上にわたりロシアで実権を握り続けている。
一体なぜロシアの国民はプーチンを支持し続けるのかずっと疑問であった。
本書はその謎に答えてくれた一冊だ。
ナワリヌイ氏は「ロシア国家=ロシア国民」というイメージは全く違うと言う。両者には共通点がないと。
では、ロシアという国は一体どんな国なのだろうか。
本書は、「プーチンが最も恐れる男」と評された、ロシア反体制派リーダーにして人権活動家のアレクセイ・ナワリヌイ氏による渾身の自伝である。
チェルノブイリ原発やアフガン侵攻を間近に見た少年期から、ソ連崩壊と新生ロシアに失望した青年期、ロシア上層部の汚職とウクライナ侵攻を敢然と告発する壮年期までが描かれている。
ナワリヌイ氏とは一体どんな人物であるか。まずはここから紐解いてみたい。
彼はインターネットを通じて政治家として頭角を表した人物である。
ソ連時代、政府による情報統制は非常に厳しいものであった。一方、まだ産声をあげたばかりのインターネットの世界は、政府による監視がほとんどされていないも同然だったという。
ナワリヌイ氏が目をつけたのがこのインターネットだった。
大学を卒業して財務会計の知識を持ち合わせていたナワリヌイ氏は、オリガルヒや天下りの官僚が支配していたロシア大企業たちの不正に目をつけ、自身が立ち上げたブログで多くの企業を告発した。
さらに不正をしている企業の株を購入し、株主総会にまで直接足を運び、多くの企業と接触したのだ。
当時、企業側の不正に気づいている者は多くいた。しかし、ナワリヌイ氏以外に誰も行動を起こす者はいなかった。
彼の勇気から学べることはあまりにも多い。
その後、ナワリヌイ氏は政治家としてしてめきめき頭角を表し、モスクワ市長選、大統領選に出馬をしている(大統領選は候補者として正式に登録されなかった)。
本書にはその様子が詳細に書かれているが、読者は本書を読んでロシアの選挙がいかにインチキであるかがわかるだろう。
ロシアではどんな選挙でも結果は決まっている。
常に1位は政府に指名された候補者である。他に有力な候補者が現れた場合は、政府で入念な事前審議が重ねられ、そもそも候補者として正式に登録されることはない。
ナワリヌイ氏についても同様だった。政府はあらゆる手で活動を妨害しようとした。
だが、そうした妨害行為が、逆にナワリヌイ氏の支持者を増やすことに繋がったのだ。
こうしてナワリヌイ氏は、ロシア反体派リーダーとして世界中で知られる政治家になるのである。
ナワリヌイ氏が亡くなったのは2024年のことだ。地球上で最も残酷な刑務所で過ごしながら、彼はそこで息絶えることになった。
しかし、ナワリヌイ氏はそんな極限状態であっても常にユーモアを忘れることはなかった。
本書には、囚人たちとさえ友情をはぐくみ極限化でもささやかな楽しみを見つけ出している様子が描かれている。そんな彼が自身の活動の宣伝のためにTikTokやinstagramでさえ熱心に投稿していた姿には思わず笑みがこぼれてしまう。動画による発信は特に女性たちの支持獲得につながったようだ。
ナワリヌイ氏はいなくなってしまったが、彼の意思を受け継ぐものたちがきっとロシアという国を変えてくれるだろう。
このような人たちがいる限り、プーチン体制は長くないはずだ。
本書は、多くの人に行動する勇気を与えてくれる一冊である。
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