いま最も注目を集める落語家といえば、桂二葉さんだ。
2021年にNHK新人落語大賞で女性初のグランプリを受賞し、翌年には繁昌亭大賞まで勝ち取り、一気に世間へその名を轟かせた。本書『桂二葉本』はその名のとおり、二葉さんの生い立ちから現在までを振り返り語ったロングインタビューをはじめ、料理家の土井善晴さんなどとの対談、そして、たくさんの高座写真もあって読み応えたっぷりの内容となっている。
二葉さんといえば、最近ではテレビでもその姿を見るようになったが、その明るさとお茶目な感じからは全く想像できない過去を持っている。本書によれば、幼少期はとにかく人前に出るのが嫌で、学童保育の演劇では顔が見えない役ばっかりだったそう。さらに、話すことや言葉が苦手で、勉強も全くできなかったという。そのことを表す微笑ましいエピソードを紹介する(笑)
MとNの違いも長いことわからへんかった。形も似てるし、音も似てるから。そんなアホな私を母は見捨てず、「ええか、MはNより1本多いんやで」言うて(笑)
言葉が苦手というのは大人になってからもそうで、落語のネタもなかなか覚えられなかったそうだ。15分のネタを10ヶ月もかかってようやく覚えたなんて話もある。とにかく何をやってもダメダメだった人間が、今では人前で話す仕事をしているというのはとても考え深い。どんな人間でも受け入れる懐の深さというのが落語の世界にはあるのだろう。
しかし、芸人さんには二葉さんのような決して明るくない過去を持つ人も多い。引きこもりだったなんて話もよく聞く(千原ジュニアさんとか)。一方で、最近ではニュース番組の司会にコメンテーターも務める芸人さんが増えてきて、世間的にはまともなイメージが付いてきているのも事実だ。また、芸人の仕事以外にもお店を経営したり、趣味の分野で突出していたりと、多才な面もフォーカスされてきて、芸人に憧れを持つ子供たちも増えている。
ここでどんな人間が芸人になるべきかを論じるつもりはないが、二葉さんが人前で話すのが嫌なのになぜ落語家を目指したのかを語った時の言葉が、妙に印象に残っているので紹介しておきたい。
でも落語に出会って、これはええなぁと。みんなが観てて、舞台上で一人でアホなことをする。最高やな!って。落語って決められたもんやし、自分で考えんでもいいと言えばいい。教えてもらえる世界やっていうのもわかったから。私はゼロから何かを生み出すことは多分できひん。でも、稽古をつけてもらって教えてもらえる、落語という出来上がったものがあるなら、私もできるんじゃないか?と思ったんですね。
なんとも純粋な理由ではないか。二葉さんの落語に惹きつけられる理由はここにあるのかもしれない。
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