【書評】『五輪汚職』

本書は、タイトルの通り、2020年東京オリンピックで起きた汚職事件に迫ったノンフィクションである。

その汚職事件とは、ニュースなどでご存知の方も多いと思うが、東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー契約などをめぐり、当時、大会組織委員会の理事であった高橋治之氏が、5つの企業から総額2億円近い賄賂を受け取ったという事件である。

本書は、当該事件を最初にスクープした読売新聞社会部取材班による一冊だ。このスクープは2022年度新聞協会賞を受賞している。それも納得で、容疑者たちへの取材模様、お金の流れ、裁判内容などが細かく書かれており、事件を時系列で振り返るのにとても良い内容となっている。

先述した高橋治之元理事とは、1979年に大手広告会社の「電通」に入社し、スポーツ局長や専務を務め、日本のスポーツビジネスの第一人者として広く知られた人物である。五輪の招致では、招致委員会のスペシャルアドバイザーを務め、国際オリンピック委員会(IOC)の委員に対するロビー活動の中心を担い、まさに招致のキーマン的な存在だ。
しかし、当初の記者会見からも見て取れるように、五輪という世紀のイベントの成否を握っているのは自分だと言わんばかりの奢りが、このような事件に繋がったのだろう。

そもそも五輪においてなぜこのような汚職事件が起きてしまうのだろうか。
本書の内容から少し掻い摘んで説明すると、五輪というのは、元々公的資金により運営されており、参加できる選手もアマチュアの選手に限られていたという。その後、戦争や政治状況の変化による影響で財政難となり、1984年のロサンゼルス大会から民間企業のスポンサーを募るという発想が持ち込まれるようになった。そこから各国は、膨大な経済効果という「副産物」を求め、国家を挙げた激しい招致レースが展開され、さまざまな不正や不祥事が噴出するようになったのだ。

新型コロナウイルスの世界的流行を受けて、2020年夏の開催日程から異例の1年延期して開催された東京オリンピックであったが、多くの感動を生んで無事閉幕することができた。
しかし、そんな輝かしい祭典にこんな汚職事件があったなんて・・。
今回の汚職事件によって一握りの人物と会社が利権を貪っていた事実が明るみに出た今、今後の五輪はどうなっていくのだろうか。また、過激な招致レースはいつまで続くのだろう。
フェアプレーの精神は一体どこに。そんなことを思わずにはいられない一冊である。

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koya
読書歴10年。書評歴3年。本は読んでいるだけではダメです。 知識はアウトプットしてこそはじめて血肉となります。 私は読書歴10年ほどで、現在は毎月平均して10冊程度の本を読んでいます。 私がこの10年間で培ってきた読書のノウハウや考えは、きっと皆さんの役に立つと思っています。 目標は「他人が読まない本を手に取る読書家を増やすこと」です。
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