【書評】『自由の丘に、小屋をつくる』

本書は、『パリでメシを食う。』『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』と数々の著作で知られる川内有緒さんによる最新作だ。川内さんは、日本大学芸術学部卒業後、アメリカの大学院にて修士号を取得し、フランスの国際機関に勤務した後、フリーランスに転向した移植の経歴の持ち主である。

そんな川内さんは、自身のことを自他共に認めるドライな女性と評し、恋人や友人にベタベタするのが苦手な一方、年齢、国籍、人種、職業、趣味、性的指向問わず多くの人と付き合える間口の広さは持ち合わせており、その著作は、多様な人々との出会いに溢れている。

本書は、そんな川内さんが娘のために建てた小屋の話であり、子育ての記録であり、作家としてのこれまでの人生をまとめたノンフィクションである。

実は、もう何年も前から、自分の暮らしに対して漠然とした不安を覚えていた。たくさんの物に囲まれ、それらを買うために懸命に働く、そんな暮らしである。

そんな不安が、DIYで小屋づくりをするという無謀とも呼べる計画へと繋がっていくわけであるが、著者にその想いを強くさせたのが東日本大震災である。未曾有の災害は、自身の無力さを自覚させられた。一方で、歌手や料理人などのいわゆる「作る側」の人々は、自身が生み出す芸術によって、沈んだ世の中を勇気づけている。自分はこのまま何も生み出すことができず、消費者としての生き方しか知らないなんて・・。そんな漠然とした不安を解消させる一つの答えとして、たどり着いたのがこの小屋づくりだった。

・・いやいや、待て待て。それがどうして小屋作りに繋がるの?と思ったあなたはおそらく常識を持ち合わせている人だ。なんて言ったら著者に怒られてしまうかもしれないが、著者自身もこれが奇妙な論理の飛躍というのは理解している。誰にもその正しさはわからないが、「ものを買う」以外の選択肢を持つことが、この不安を解消させ、娘のためにもなるかもしれない。
それからというものいろんな人を巻き込みながら娘のための小屋作りが始まるのだ。

著者の行動力にはいつも驚かされる。誰もが著者のような行動力を持つことは難しいかもしれないが、一つ言えるのは、新型コロナウイルスの流行や今回の能登半島地震のようにいつ何時世の中が大きく変化するかわからない中で、私たちに大切なのは、著者が言うように消費することから離れて自ら何かを作ってみることなのかもしれない。

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koya
読書歴10年。書評歴3年。本は読んでいるだけではダメです。 知識はアウトプットしてこそはじめて血肉となります。 私は読書歴10年ほどで、現在は毎月平均して10冊程度の本を読んでいます。 私がこの10年間で培ってきた読書のノウハウや考えは、きっと皆さんの役に立つと思っています。 目標は「他人が読まない本を手に取る読書家を増やすこと」です。
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