【書評】『体験格差』

子どもの頃は何かと忙しい時期である。
放課後の塾や習い事、週末の家族旅行やキャンプ、図書館や美術館といった文化施設に行くこと、地域のお祭りといった地元イベントへの参加など、学校教育以外に幅広いアクティビティがある。
子どもの頃のこうした「体験」の有無は、精神面での成熟を支え、大人になってからの対人関係の構築や目標達成への意欲にも関わってくるという。

しかし、日本における子ども時代の「体験」の有無は軽視されがちだ。
阿部彩氏による2008年の著書『子どもの貧困』の中で、日本の一般市民においては、イギリスやオーストラリアといったほかの社会に比べて、「子供が最低限にこれだけは享受するべきであるという生活の期待値が低い」と述べている。
一つの理由として、各種の体験は、受験などに直結する学業に比べると「どちらかといえば遊び」「就職などに直接影響しない」というイメージが強いからかもしれない。

こうした経緯もあり、子どもの体験格差については、そもそも全国的な調査すらまともに行われてこなかった。
そこで著者の所属する非営利団体「チャンス・フォー・チルドレン」は、2000人の保護者を対象に、体験格差に特化した全国調査を実施した。
本書はその結果をもとにして書かれたものだ。

調査結果は皆さんの想像通りだ。
基本的には、親が高所得な家庭ほど子どもは色々なアクティビティに参加しており、貧乏であればあるほど体験の機会が減っていくという内容だ。さらに年収300万円以下の低所得家庭においては、過去1年間で何かしらの体験の機会が「ゼロ」だったという子どもが、全体の1/3近くを占めたという。

また、資金の有無だけが、体験格差に繋がっているわけでもない(そう単純な話でもない)。
時間的リソースの面もある。例えば、地域の野球やサッカーのクラブなどをイメージすればわかる通り、それらは民間事業者の提供するサービスよりは安価であるが、その分、保護者は単に利用者であるだけではなく、無償で様々な活動をサポートする存在として期待される側面がある。母子家庭ではこうしたサポートに時間を割くことが難しいのである。

一方で、体験が多ければ良いというものでもない。
傷つきやすいアメリカの大学生たち』という本では、近年、アメリカで急増している傷つきやすく精神が脆い学生たちを育てた教育として、「自由遊び時間の減少」というものを挙げている。

両親が高学歴で裕福な家庭の子どもには、放課後や週末に友だちとゆったり過ごす時間はなく、受験戦争に勝つための能力を育成する時間で埋めつくされている。

これはそっくりそのまま日本の子ども達にも言えることである。親が管理・支配する時間が多くなれば、子供たちは「仕組まれた自由」の中でしか自由な時間を謳歌することができなくなってしまう。子供というのは、親の干渉から離れ、他の子供達と共同しながら子供達だけで遊びを作っていける時間が必要なのである。

さて、話をややこしくしてしまったかもしれないが、本書は、そうした子供の育ち方についての議論の出発点として、必読の一冊となるだろう。

傷つきやすいアメリカの大学生たち』は本ブログで紹介しているので、ぜひこちらもご確認いただきたい。

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koya
読書歴10年。書評歴3年。本は読んでいるだけではダメです。 知識はアウトプットしてこそはじめて血肉となります。 私は読書歴10年ほどで、現在は毎月平均して10冊程度の本を読んでいます。 私がこの10年間で培ってきた読書のノウハウや考えは、きっと皆さんの役に立つと思っています。 目標は「他人が読まない本を手に取る読書家を増やすこと」です。
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