本書は、高所得者が集まる郊外に住んで成績優秀校に通う子どもたちが、スラム街のような都市の治安が悪い地域で暮らす子どもたちと同様に、鬱、摂食障害、希死念慮、薬物中毒に悩まされているという衝撃の内容が書かれている。
翻訳を担当した信藤 玲子さんが書評を書いているので、本書の内容を詳しく知りたい方はぜひ以下を参照してほしい。
『有害な達成文化からの脱出 ジェニファー・ウォレス『「ほどほど」にできない子どもたち 達成中毒』刊行』
https://note.com/q_bookshelf/n/n5ca553a0e86e
本ブログでは、私が個人的に気になった内容を紹介したい。
「嫉妬」と題した章にこう書かれていた。
少しでも休めば罪悪感に襲われ、落ちこぼれてしまうと焦燥に駆られた。競争心を胸に秘めていると、親しい友人を作るのがどうしても難しくなる。そんな毎日を「島でひとりぼっち」だと感じるときもあった。
この感情はすごく共感した。クラスメートというのは、学業、部活、時には恋愛と、あらゆる面でライバルである。そんな彼らとどうやって親しくなれるというのだろう。
『欲望の見つけ方』という本で、「人は他人の欲しがるものを欲しがる。欲望はその人自身の内側からは湧いてこない」と言った。
そもそも人間は、誰かを模範するようにできていて、他人が欲しがるものを自分も欲しがっているだけなのである。だからこそ、SNSがこんなにも普及したのだ。しかし、多くの人は、その欲望が他人から来たものではなく自分の内から湧いてきたものだと勘違いしている。その勘違いが私たちを良くない方向へと導いてしまう。
その良くない方向とは何か。本書に答えが書かれていた。
「成長するにつれて自分は劣っていると感じるようになります。お金持ちじゃない、可愛くない、頭がよくないって」。自分に足りないものを感じれば、他者を打ち負かして自分の価値を証明しなければならないという思いがいっそう強くなる。
他者を模範すればするほど、自分に足りていないものは際限なく見つかるだろう。
こうなりたいという欲望が自分の内から湧いてきていると思っている人間は、他人のことを自分を成長させてくれる存在ではなくて、脅威とみなしてしまうのだ。
近年ではSNSの普及により、ライバルは同じ学校内にとどまらず、日本中(ないしは世界中)に存在するだろう。SNSを開けば、何かの点で自分より優れている人がすぐに見つかる。頑張って努力をしているのに、かえって不安が多くなったりプレッシャーを感じてしまうのは、常に競争相手が隣にいるからだ。
では、このプレッシャーの連鎖から抜け出すにはどうしたらいいのだろうか。
そのヒントも本書に書かれていた。キーワードはやはり友情だ。
本書によれば、子どもにとって家族の次に重要なコミュニティは学校であるという。学校との結びつきは、薬物濫用、低年齢の性行為、飲酒や運転を原因とする不慮の事故を防ぐ効果が高いことがわかっている。
それは、たとえ学校の中で相手が1人でも深い友情があればいいのだ。深い友情が、孤独がもたらす害悪から身を守り、自尊心と学業への意欲を高めてくれる。
競争相手でもある友達と深い友情を築くにはどうしたらいいだろう。
その答えについては、私もこの年になって今だにわからずにいるが、たとえば、途方もなく大きな目標を持つというのはどうだろう。勉強して東大に入るとか、合唱コンクールで全国大会に行くとか、目標は大きければ大きいほどいい。そうすれば、友達は競争相手ではなくなり、一緒の目標に向かって自分の成長を後押ししてくれる存在になるかもしれない。
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