【書評】『最悪の予感』コロナ危機において最大の被害を出したアメリカの実態に迫った一冊

本書は、アメリカにおけるコロナ対応の実態について迫った1冊です。
死者数が約60万人(人口3.3憶人)と、コロナ危機において最大の被害を出した国とも言われているのがこのアメリカです。
なぜ、世界で最高の医療機関や研究機関をもち、トップクラスの頭脳が集まっているはずのアメリカでこのような惨事が起こったのか。
マネー・ボール』など数々の傑作を生み出してきたマイケル・ルイスが、コロナ禍を戦った知られざるヒーローたちの姿を通じ、意思決定と危機管理の本質を描く全米ベストセラーです。

誰もやりたがらない仕事

理屈では、CDCはアメリカの感染症管理システムの頂点に位置する。しかし実際には、社会的権力を持たない人物に政治的リスクを押し付けるシステムと化していた。誰も背負いたがらないリスクと責任を、地域の保健衛生官に背負わせる。保健衛生官はそのためにいるようなものだ。

いまでも、アメリカのCDC(アメリカ疾病予防管理センター)は、世界の感染症対策における司令塔的存在だと思われています。
しかし、現場で働く多くの医師や保健衛生官は、そうは思っていませんでした。
本書で登場する、サンタバーバラ郡の保険衛生官であるチャリティは、最もそのことを感じていた人物です。
保健衛生官とは、公衆衛生において、疾病の蔓延や症例発生を防止するために、必要な措置を講じることができる責任をもっており、やりがいのある仕事です。
チャリティ自身もそう感じて、意気揚々と医師から職を移してきました。
しかし、実態はというと、現場で起きたあらゆるトラブルに対し、適切な判断を下すことができないCDCの代わりに、自らのクビをかけて、人の生死にかかわる判断をし続けなければならない、誰もやりたがらない仕事でした。

「あの人たちは、精神的なマスターベーションをしたがるんです。」とチャリティは言う。「そういう表現が的を射ていると思います。堂々めぐりの話し合いを一時間も続けて、何の結論にも達しないんですから。でも、それが終わる時点で、わたし自身は決断を下さなければいけませんでした」

本書には、そんなCDC上層部の現場感覚のなさや官僚的な事なかれ主義が、多く書かれています。
ただ、肝心なところで政治的配慮のあまり判断が歪んでしまう点などは、日本の行政や企業でもよく目にする光景で、決してよその国の話という印象はまったく感じさせません。

アメリカのコロナ対策最大の貢献者

本書を紹介する上で、カーター・メシャーという男を紹介しないわけにはいきません。
2005年、ブッシュ政権下で、これまでの実行力に乏しいパンデミック対策計画を練り直すため、既存の枠にとらわれない斬新な発想ができる人々が招集され、その中でも型破りの異才と評価されてきたのが、このカーターです。
彼の最大の関心は、ワクチン製造までの間いかに感染拡大を遅らせるかでした。
そんなカーターらのチームは、2020年1月、トランプ大統領が事態を軽視する発言をする中、新型ウイルスの本当の患者数、致死率は、推定以上に膨れ上がることにいち早く気づきます。
それが確信に変わるが、ダイヤモンド・プリンセス号での日本の報告でした。

東京湾に停泊中のクルーズ船には三七一一人が乗っていて、船室に閉じ込められている。もちろん、これが人工的な社会環境であることは、カーターも重々承知だ。船上のウイルスは、たとえばアメリカの都市とは違った広がりかたをするだろう。しかしそれでも、アメリカの都市部でウイルスがどう振る舞うかを予想するうえで、おおいに参考になる点があるはずだ

ダイヤモンドプリセス号のことは、今ではとうの昔に感じられますが、疫学的には秀逸な状況であり、日本の報告がいかにしっかりしたものであったが、本書を読むことで再認識ができます。

最悪の予感

本書を読んでわかることは、有事の際、危機を解決するのは、トップではなくて組織の末端にいる人たちということです。
本書では、そんな彼らを「L6」と呼んでいます。
L6とは、組織のトップから数えて6番目の階層の人たちのことをいいます。
先ほど紹介した、保健衛生官のチャリティやカーターも、コロナ危機が起きた際は、コロナ対策の中心から程遠い人物でした。
コロナ対応については、日本も決して褒められたものではありませんでした。
日本にいる私たちも、彼らの姿から学べることは多いのではと思います。

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