オートファジーとは「自ら(Auto)」を「食べる(Phagy)」というその名の通り、自らの細胞質成分を食べて分解することで、生命活動に欠かせないアミノ酸を得る働きをおこなう細胞内小器官の1つです。
オートファジーはその働きから、細胞内の「リサイクルシステム」とも言われており、このリサイクル活動から得られるタンパク質量は、食事から得られるタンパク質量よりも3倍の量を生成していることから、生命活動においてとても重要な存在です。
本書は、そんなオートファジー研究の最先端を牽引する著者による一冊です。
ー目次ー
①ポピュラーサイエンスの決定版!
②オートファジーは難病への有効な治療法となる
③過程を重視する教育の大切さ
④著者はオートファジー研究の世界的権威
①ポピュラーサイエンスの決定版!
ご存知の通り生命の基本単位は細胞です。
本書の言葉を借りれば、ウランウータンであろうがオードリー・ヘップバーンであろうが、生物は皆細胞からできています。
本書は、この細胞の役割にフォーカスし、高校生物で習うような細胞内の生化学的現象から、DNAの働きやタンパク質の生成までを幅広く解説し、生命科学についてよく知らないという初心者から、セントラルドグマや基本的な細胞の仕組みを理解している生命科学好きまで、幅広い読者を楽しませる内容となっています。
②オートファジーは難病への有効な治療法となる
本書の主役となるのが、冒頭でも述べたようにオートファジーです。
本書では、オートファジーはわれわれ生物の近未来を描く最新の研究分野ということで登場します。
それは、オートファジーがこれまで有効な治療法がほとんどないと言われてきた、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患に対して有効な治療法となることが期待されているからです。
さらに、人類が今よりも長寿となる鍵を握る働きをするとして、全世界の研究者の注目を集めているのです。
では、なぜオートファジーは、こうした神経変性疾患に有効なのでしょうか?
アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患は、脳細胞の中にタンパク質の塊ができて、その塊のせいで細胞が死ぬことで起こります。そのタンパク質の塊をオートファジーは狙い撃ちで除去します。
このようにオートファジーは、細胞内の清掃作業をおこない、細胞内の恒常性を維持するための重要な働きを担っています。
特に生まれてから一生入れ替わることがないとされる神経細胞においては、この働きが重要となってくるのです。
本書では、このように簡潔かつ明瞭な文章により、瞬く間に読者を科学の世界に引き込んでくれます。
③過程を重視する教育の大切さ
本書の中で、おそらく著者が一番伝えたかった内容が本書の第1章に書かれています。
第1章は、生命科学の講義ではなくて「科学的思考を身につける」と題し、不確実性が増す現代において、個人がいかに科学者のように思考することが重要であるかを説いてます。
「科学的思考に暗記と数学はいらない」という項目では、著者は以下のように述べています。
大事なのはその数式がなぜ、どのようにして考えられたか、です。科学は結果として膨大な知識を生みますが、それが生まれた経緯や考え方の方がずっと重要です。受験勉強が優先される今の教育では、科学の結果は山ほど教えてもらえますが、それらの発見の元になった科学的な考え方についてはちっとも教えてくれません。
多くの人が勉強に魅力を感じなかったのは、こうした過程を重視しない教育スタイルだったからであると著者は言います。
仮説を立てて検証するという手法は、なにも科学の世界に限った話ではありませんが、やはり科学とそれ以外ではスケールがまったく異なります。
科学の面白さはそのスケールの大きさにあります。
その意味では生命科学というのは科学的思考を養ういい題材となるはずです。
本書も例外ではありません。
④著者はオートファジー研究の世界的権威
最後に、本書の著者である吉森保教授について触れておきます。
吉森教授は、ノーベル賞を受賞した大隈良典教授が国立基礎生物学研究所にラボを立ち上げた際に、助教授として参加し、その後、哺乳類のオートファジー研究が発展する最初の大きなきっかけとなった、LC3タンパク質を発見した優秀な研究者である。
LC3タンパク質の論文の被引用数は5000を超え、オートファジー分野では世界一位となっています。
そんな世界的な権威である著者ですが、本書での論調は柔らかく小難しい物言いはまったくありません。
本書は中学生であっても読むことができるでしょう。
世代に関係なく多くの方におすすめの一冊です。
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