【書評】『経理から見た日本陸軍』日本陸軍の生活は、衣服はツギハギだらけで節約の日々だった。

本書は、元防衛事務官である著者が、自身の専門知識を生かして、帝国陸軍の「経理」について描いた本です。
著者は、大学で企業会計を専攻し、卒業後、防衛庁で15年ほど装備品調達に関わっていましたが、その世界の独特の会計処理に興味をもち、埼玉大学で「軍需品と原価計算」の研究により博士号を取得しています。
そのせいか本書では一次資料が丁寧に参照されており、制度面の変遷は元より、予算要求や執行手続き兵器や糧食被服等の調達要求価格決定不正経理など、かなり綿密に書かれています。

軍人生活はいかに節約するか

本書で特に興味深かったのが、第2章の「経理から見た軍隊生活」です。
軍事費というのは、決して兵器だけではなく、日常における兵士の食事や衣服といった、軍隊を維持することにたくさんのお金がかかっています。
大正14年度決算における陸軍省所管経常部による報告によれば、全体の算出金額である約1億7076万円(約8,540億円)中の、約60%(5,124億円)が軍人の給料と衣服費および食費に使われていたようです。
この衣服費および食費については「委任経理」という形式をとっていました。
委任経理とは、毎年定額を各隊に交付してその運用を各隊長に任せるというものです。
これにより軍隊生活では、何かにつけて余剰が出るように工夫し、積立金を増やすというのが、各隊の経理部将校の腕の見せ所だったようです。
そして、この委任経理により、いかに各隊が創意工夫を凝らし節約していたかが、本書においても興味深い内容となっています。

衣服はツギハギだらけ

例えば、大正までは、米よりも小麦の方が安価であったため、積立金を増やそうとこぞってパン食にする隊が多かったそうです。
また組織全体としては、パンの支給量を決定するために、一個大隊ごとに期間を決めて支給量を変えて適正量を測るなど、ある意味、人体実験のようなこともしていたそうです。
さらに、衣服についてはお金が最もかかるため、本来であれば交換すべき程度の破損であっても、十分な予算が取れないために交換ができず、主に修理することで賄っていました。
そのため、軍は衣服と靴の修理工場を建設し、沖縄戦ではそれを見つけた米軍が「信じられない」と報告書を書く始末でした。
ちなみに、米軍では破損した衣服はすぐ新品に交換されていたようです。

経理から見た日本陸軍

戦争に関する本といえば、外地における著名な作戦や政治活動として語られることが多いですが、本書は経理というこれまでとは異なる視点で戦争を読み解いていて、過去に類書がありません。
さきほど紹介した衣服や食費以外にも、給料のことから諸手当、旅費のことまで、様々書かれており、軍事費や防衛費としてこれまで馴染みのなかった金額について深みを与えてくれます
中には原価計算に関することまで描かれているので、こちらは多少会計知識がないと読解するのはちょっと厳しいかもしれませんが、本書全体を通して、戦争・軍隊に興味がある人、会計・経理に興味がある人など、どちらの人も楽しめる内容になっています。

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