仕事で猛烈に成長したければ、経験豊かなメンターを見つけて彼らを質問攻めにするといい。仕事を辞めるべきか。キャリアアップのために何をしたらいいのか。自分のアイデアに何らかの価値があるのか。いつどうやって独立するべきか。
しかし、あいにく多くの人にはそのようなメンターは見つからない。周囲の上司や同僚に業務の相談はできても、先ほどのような相談をすることに抵抗がある人も多いだろう。
本書は、AppleでiPodとiPhoneの開発に携わった伝説のエンジニアであるトニー・ファデルによる初の著書だ。
ファデルは、30年以上ものキャリアをシリコンバレーで過ごし、スティーブ・ジョブズをはじめとした数々の偉大な人物たちのもとで経験を積んできた人物だ。失敗の数も人一倍多い。
そんな彼が重要視するのが冒頭で述べたメンターの存在だ。ファデル曰く、優れたメンターは答えを与えるのではなく、目の前の問題を新たな視点で見られるように手助けしてくれる存在である。
本書はまさにあなたのメンターとなるような一冊だろう。繰り返し読むことをお勧めしたい。
チームのマネジメントに頭を悩ませている人は多い。本書にはそんな迷えるマネージャーたちへのアドバイスも豊富だ。
そもそもマネージャーの仕事とは何だろう?
ファデルによれば、マネージャーの仕事とは質の高い成果物を確保することだ。チームの仕事の「成果」ではなくて「プロセス」に首を突っ込みすぎれば、それはマイクロマネジメントまっしぐらである。ハードウェアのみならず、パッケージに書かれた文言の一字一句に至るまで徹底的に目を光らせたジョブズのもとで働いた彼がいうのだから説得力がある。
そして、もうひとつマネージャーにとって重要なのが、会社の問題と自分自身の問題を切り離すことだ。つまり自分自身の行動がチームの不和の原因となっている時と、自分ではどうにもならない状況にある時を見分けることである。組織のリーダーとしてうまくチームを率いていくために、性格のどの部分をコントロールする必要があるのかを知ることは非常に重要だ。
また、個人的に興味深かったのは「下(ばかり)を見ない」という章である。
これは一般社員(部下を持たない社員、ヒラ)の心得を書いた章で、ヒラの役割は細部を詰めることにあるが、目の前の差し迫った締切や仕事の細部しか目に入らないということでは、いつまで経っても成長はないだろう。
ヒラの時から、次の締切やプロジェクト、さらには数ヶ月先までのマイルストーンを確認すること、いつも一緒に働くチームから離れて、社内の他の部署の人たちと話すことが大事だ。
そして、アイデアマンであるファデルならではの提言もある。
それは脳の若さを保つということ。ジョブズはそれを「素人であり続けること」と呼んだ。
本書にはこんな話もある。
その昔、全ての家電は使う前に充電する必要があった。箱から出した途端に使えるものなど一つもなかったのだ。その現状を見たジョブズは「われわれのプロダクトではそんなことは許さない」と言い、iPodを工場で2時間以上も動かしその間にバッテリーを完全に充電させたという。無論、工場の生産ペースは大幅に落ち、製造チームからは「コストが増える」と苦情が殺到した。しかし、結果はどうだろう?今やほとんどの家電はあらかじめ充電されている!
哲学者ルネ・ジラールは「模倣の欲望」理論で、人が何かを欲しがる理由を明らかにした。
それは「人は他人の欲しがるものを欲しがる。欲望はその人自身の内側からは湧いてこない」というものだ。
私たちは常に周囲を見てなりたい自分を決めている。
そして、ここでは誰を模倣するかというのが最も重要となる。身近な存在ばかりを模倣していると半径の狭い人間になってしまうだろう。大切なのは、遠い存在の誰かを模倣することだ。自分の中のヒーローを見つけること。それが自分に与えられた仕事の質を高めることに繋がる。本書は、本の姿をしたメンターであり、アドバイスの百科事典だ。
哲学者ルネ・ジラールの「模倣の欲望」をわかりやすく解説したこちらの本もオススメである。
私の書評はこちら。
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