本書は、『読書大全』などの著作や書評サイトHonzのレビュアーとしても知られる堀内勉さんによる、読書についての指南書である。
前作『読書大全』は、488頁もの分厚い本であるが、Amazonでは260近くものレビューが挙げられ、そのうち8割程度の方が高評価をつけている。読書離れが進む日本において、これほどの大著が多くの方に読まれていることには驚きである。そんな著者による読書論とくれば、読まないわけにはいかないだろう。
著者の堀内さんといえば、東大法学部、ハーバード大学の大学院を卒業したまさにエリート中のエリート。本書では、そんな堀内さんが、一転して30代後半には、自分のやりたいことや目標を見失い、苦労や葛藤してきた人生についても語られている。
誰もが羨むような経歴を持ちながら何を悩むことがあるのか?と思う方もいるだろう。
しかし、銀行員や証券マンとして猛烈に働いていた著者の姿は、組織の歯車として何のために働いているのかもわからずに、ただ心の奥底の不安を打ち消すために働いている多くの日本のサラリーマンにも通じるものがある。そして、そんな著者を救ったのが読書だった。
なぜ学ぶべきか、なぜ読書をすべきであるかは、すでに多くの本で書かれている。しかし、本書は他のどの本よりもその核心に迫るものがある。たとえば下記のような記述もその一つ。
人間という存在は、持って生まれたデフォルトの心身の状態に、環境を含めた多くの「体験」と「学習」が積み重ねられて形づくられる作品のようなものだと考えています。
要するに、人は生まれつき全てが決まっているわけでもなければ、「体験」「学習」だけがその人を形作るわけでもないということだ。著者が言うような、「体験」と「学習」が積み重ねられて形づくられる作品を、仮に「人間力」と呼ぶならば、その人間力を磨くためには我々は何をするべきなのだろうか。
自分が「何もわかっていない」ことを認識することこそが、他者の意見に耳を傾け、他者の視点で世界を見渡し、他者の考え方を理解したり、想像したりすることにつながるからです。
重要なのはより多くの「わかっていない」に遭遇することである。そのような時にこそ、読書は心強い味方となるだろう。なぜなら、本は読めば読むほど、知らないことに出会うことができるからだ。
ここを読んで、以前読んだ福岡伸一さん著『生物と無生物のあいだ』にある以下の一節を思い出した。その一節とは、細胞の入れ替わりと知識の獲得について触れた内容だ。
体の細胞というのは、だいたい4ヶ月程度で全て入れ替わるとされている。
そして、その入れ替わりのプロセスは、死んだ細胞や病気になった細胞を入れ替えているのではない。あえて、自らの正常な細胞を壊して入れ替えるという能動的でダイナミックなプロセスを行っている。
福岡さんは、人の知識や価値観も同じだと言う。つまり、知識や価値観というのは、古くなってから入れ替えるのではなくて、常に能動的に学び、自ら古い価値観を壊しにかかることが重要なのだ。そして、新しい知識をもとに、以前よりもより良い価値観に再構築するのである。
私自身、多くの本を読んできたと自負しているが、本書はいい意味でも、自分の読書観を大きく書き換えてくれた。自分の人生の良き相談相手として、いつまでも本棚に置いておきたいと思える、そんな一冊だ。
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