【書評】『ニューワード ニューワールド』竹田 ダニエル (著)

Facebookが日本で登場したのは2008年のことだ。
そこからSNSは、スマートフォンの普及とともに利用を拡大して、2024年時点で日本の利用者数は、約8,452万人と推定されており、これは国内ネットユーザーの約79%に相当している。
家族や友人とのコミュニケーションや情報収集など、便利になる一方で、メンタルヘルスへの悪影響や犯罪に巻き込まれるリスクなど、SNSを利用する弊害についても盛んに議論がされている。
日々ネット上で誕生している言葉や文化は、一部のユーザーにとっては身近であるが、多くの人にはそうではなかったり、ユーザー間の断絶も生じている。
そんな中、ネット文化とリアルを繋ぐ架け橋として登場したのが、本書の著者である竹田ダニエルさんだ。

本書は、カリフォルニア大学バークレー校大学院在学中ながら、アーティスト、ライターとしても活躍する竹田ダニエルさんの著書である。
「メンタルヘルス」「仕事とお金」「SNS」「恋愛・人間関係」「環境・人権」の全5章からなっており、若者中心に日々生まれる新しい言葉(ニューワード)を通して、新しい価値観や考えを紐解き、悩み多き現代人のモヤモヤを解消し整理をしてくれるような一冊だ。
また、ダニエルさんと同じ、現代を象徴する若きアーティストたちとのスペシャル対談も収録されており、全体を通して、刺激に満ちた内容となっている。

本書で学んだことが2つある。以降で詳しく見ていこう。

ネットの世界は同じ価値観を持っている人と出会いやすい反面、思想が偏ったり過激化しやすい

日本ではあらゆることを曖昧にしやすい

「可愛さ」への違和感

著者は、日本に滞在していると、日本では女性が「容姿が可愛くないとダメ」と感じさせられていると思うことが多々あるという。

そう感じた理由として、日本のタレントやアイドル、インフルエンサーが発信するコンテンツには、根拠が明らかではない美容法や過度な食事制限、美容整形に関する情報が含まれ、それをカジュアルに発信していることに違和感を感じたからだ。

たしかに、SNSやYouTubeでは、自分を美しく見せることに努力を惜しまない女性たちが数多く登場する。
彼女たちの動画には「常に自分磨きをしていて素敵」といった称賛の声が寄せられている。
しかし、そのようなマインドが行き過ぎれば、「可愛くなることは努力の証」「可愛くない=努力が足りない人」と見た目が人格に結びつけられることになるだろう。
しかし、必ずしも外見を磨くことだけが努力の証というわけではないはずだ。本を読んだり、どこかに旅行に出かけたり、内面を磨くことも立派な努力の証である。

ネットでは同じような価値観を持った人が集まり、考えが偏ったり過激化しやすい。こうした「可愛さ」についての過剰な意識もネットの性質が表れているのだろう。

近年では、子供のインフルエンサーの増加も顕著である。デジタルデバイスを使いこなす子供たちは自身でコンテンツを作成し気軽に公開する。そうしたコンテンツに視聴者である同世代の子供が影響を受け、美容に関心を持ち、大人と同じ高額なコスメを欲しがったり、過度に老化を心配する子供たちが増えているというから驚きだ。

アメリカの多様な愛の形

本書を読んでアメリカでは男女の関係性を表す言葉が多様であることに驚いた。
少々長いが本書から引用する。

アメリカにはポリアモリー(関係者全員の同意を得たうえで複数のパートナーと関係を築く恋愛スタイルのこと)を公表している人も少なくないですし、ジェンダーアイデンティティもセクシュアリティもかなり多様です。その分、恋愛の形もたくさんあって、オープンリレーションシップ(1対1のパートナーシップに囚われず、パートナー以外にデートやセックスなどをする相手がいる関係)、シチュエーションシップ(友達以上恋人未満や、付き合っていても、それを公にしない関係)、エクスクルーシヴリレーションシップ(正式に付き合っているとは限らないが、ほかの人とは会わないでお互いにだけにとどめる関係)など、本当に多様です。

アメリカでは、幼い頃から自己主張することが求められる。自己主張しなければ存在しないのと一緒なのである。こうした多様な愛の形も、思ったことをはっきりと言葉にするアメリカ特有の文化なのだろう。

一方、日本では曖昧な関係であり続けることが多い
その原因の多くが男性側にあり、男性は関係を曖昧にしたがるという。
女性の方から「私たちの関係をどうしたい?」と促すケースも少なくないようだ。

日本で大ヒットした逃げ恥(TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』)では、こうした曖昧な関係について、夫婦2人で議論するというシーンが多く登場した。
曖昧さを好む日本人からは目新しい光景だろう。この目新しさが、逃げ恥流行の理由の一つとして挙げられるかもしない。

終わりに

曖昧にするのは男女の関係だけではない。
著者によれば、現代ではあらゆることを「難しい問題」という言葉で片付けてしまっているという。

特に最近のメディアを見ていて感じるのは、なんでも「難しい問題」という言葉でまとめて、思考停止してしまうこと。「難しい」で片付けず、一人一人自分で考えていくことが大切だと思うんだよね。

この言葉には非常に共感した。まさにこのために本書のような本がある。
本書で語られるテーマはいずれも壮大だ。まずは自分の興味があるテーマから読んでみて自分なりの考えを膨らませてみると良いだろう。

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koya
読書歴10年。書評歴3年。本は読んでいるだけではダメです。 知識はアウトプットしてこそはじめて血肉となります。 私は読書歴10年ほどで、現在は毎月平均して10冊程度の本を読んでいます。 私がこの10年間で培ってきた読書のノウハウや考えは、きっと皆さんの役に立つと思っています。 目標は「他人が読まない本を手に取る読書家を増やすこと」です。
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