【書評】『猫が30歳まで生きる日』

みなさん、猫はお好きですか?
猫を飼っている方ならご存知かもしれませんが、ほとんどの猫は老齢になると腎臓病にかかり、その多くが長く苦しんだ末に亡くなります。
腎臓は、生物が生きていく中で、体のいろいろな臓器からできた老廃物を濾過して、体内をきれいにする働きをしています。
当然、腎臓が悪くなれば、ゴミが溜まり、体調がだんだん悪くなります。
実はこの腎臓病は、現代医療でも、完治させることができない病気の1つでした。

この腎臓病に対して、一筋の光を当てたのが、著者の宮崎徹さんです。
宮崎さんは、大学院一年生で科学誌「ネイチャー」に論文が掲載される等、世界でも類のない大変優秀な方です。
そして、その後は「ネイチャー」含め、「セル」「サイエンス」「PNAS」の4大ジャーナルに論文を発表し、いわゆるグランドスラムを果たしています。

そんな宮崎さんの研究対象は、AIMという謎のタンパク質でした。
AIMとは、「Apoptosis Imhibitor of Macrophage」、和訳は「マクロファージの細胞死(アポトーシス)を抑制する分子」となります。
このAIMについては、1990年代当時、マクロファージを長生きさせる分子ということくらいしかわかっていませんでした。
しかし、宮崎さんはグランドスラムを果たしたこれまでの研究分野とは一見関係のないこの分子に、研究者人生をかけることを決意します。

「このタンパク質が血液の中に高濃度で存在するのだから、生体にとってなんらかの重要な意味があるのだろう」と考えたことはあるが、なんとなく「これはちゃんと研究したほうがいいな」と思っただけでした。

いまではAIMの働きは解明されつつあります。
AIMは、死んだ細胞(ゴミ)に特異的にくっつき、マクロファージのような貪食細胞に自身ごと食べさせて掃除をさせます。
このAIMが正常に働かなくなれば、マクロファージの機能は鈍化し、細胞にゴミが溜まり始め、しまいには病気になります。
ゴミによる病気は、腎臓病や自己免疫疾患、アルツハイマー型認知症など、形を変えて多く存在しますが、たとえまったく違う病気に見えても、「AIMがゴミに特異的にくっつき、それを貪食細胞に効率的に食べさせて掃除させる」というメカニズムは共通のものです。
血液の中にたくさん存在するこの不思議なタンパク質は、実は生物にとって重要な分子だったのです。

ここで、最初の猫の話に戻りましょう。
本書では、腎臓病を発症した猫に、AIMを投与することで、腎臓の機能が劇的に回復したことが報告されています。
多くの猫と飼い主を苦しませてきた腎臓病は、もう完治できるところまできています。
そして、AIMは、猫の腎臓病だけではなくて、人間のアルツハイマー病や自己免疫疾患などの、これまで完治させることができない病気への活用にも期待がされているのです。

最後に、本書には、興味深い事実がまだ1つ残されています。
それは、猫だけでなく、トラやライオン、ヒョウ、チーターなどネコ科の動物のほとんどが、腎臓病を多発し、それが原因で亡くなっているという事実です。
特にチーターについては、寿命が8年と短く、死因は100%腎不全だといいます。
では、なぜネコ科の動物に限ってAIMが正常に進化しなかったのでしょうか?
実はこれはまだ解明されていません。
今後もしかしたら、ここからAIMにかかわる重大な発見につながる何かがまた一つ見つかるかもしれません。

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