本書は、オールナイトニッポン元チーフディレクターによる、その10年間を綴ったエッセイです。
ラジオ番組はリスナーのものと言う著者は、そんなリスナーへの一番の背信行為は、「番組が終わること」と言います。
それはかつて、自身も猛烈なリスナーだった頃から、番組が終わる以上にショックなことはなかったからだそうです。
本書は、誰もが知っている人気歌手や人気芸人のパーソナリティ達との交流や、テレビでは見えてこない彼らの姿を知ることができて、まさに舞台裏を覗いているかのような楽しさを味わうことができる一冊です。
ダメ人間だった大学時代
伊集院さんは、過去の自分の失敗談をたくさん話してくれた。「話してくれた」と言っている時点で勘違いも甚だしいのだが、当時は自分に話してくれていると本気で思っていた。学校に行けなくなったことや、死にたいと思っていた過去、今も小さなことで悩んだり怒ったりしている、と話していた。漠然と「死にたい」と思っていた自分に、「こんなにくだらないことを言っている大人もいるんだから、君も生きていていいんだよ」と言ってくれたように感じた。
ラジオのディレクターと言えば(しかもオールナイトニッポン!)、ついついイケてる人がその職に就いているのかと思っていましたが、著者は真逆でした。
入学した明治大学の新歓コンパでは、自己紹介以外、一言も言葉を発しないという根暗ぶりを発揮しています。
そして、周りに馴染めないまま、そのまま不登校に。
大学なんてそんな人間いくらでもいそうですが、まじめな著者は、両親にそのことを悟られぬように、毎日大学までの電車を2往復して時間を埋めていたと言います。
せめてバイトに精を出そうと思い立ちますが、声が小さいことを注意され、それが嫌ですぐに辞めます。
大学にも行かない、バイトもしない、そんな人生に絶望していた著者を救ってくれたのが、冒頭の伊集院光さんや爆笑問題の太田光さんのラジオでした。
2人に共通するのは、自分がいかにダメなのかを笑いに変えていることです。
私もそんな2人のラジオは聴いていましたし、世の中にはこんなにもダメな人間がいるのだなと思った覚えがあります。
当時の2人のラジオに救われたという人は少なくないと思います。
ラジオの世界はとにかく厳しい世界
結局、4時間40分の生放送中、ずっと怒られていた。もちろん、怒られたぼくにすべて非がある。
ディレクターの世界はとにかく厳しい世界のようです。
一緒に入社した同期は、研修3日目にはすべて消え去り、著者1人だけの研修となりました。
さらに、はじめてディレクターを任された際は、行動1つ1つに対して激が飛んで、4時間以上怒られっぱなしです。
しかも、ある先輩から教わったことを他の先輩の前でやっていると怒られるという有様。何という理不尽さでしょう…。
しかし、著者はラジオの仕事に就いてから、辞めたいと思ったことは一度もないと言っています。
バイトでさえすぐに逃げ出していた著者が、そう思えたのは、自分にはラジオしかないと思っていたからでしょう。
バイトが出来ないのではなくて、目標がなかったこと、合わない人と仕事をすること、好きでもないことが出来ないだけだった、と気づいた。
キレイごとを言うつもりはありませんが、やりたいことや目標があれば、多少の労苦があっても耐えられるものです。
ダメ人間だった著者が、寝る間も惜しまず仕事に熱中する姿勢は、そのようなことを気づかせてくれます。
いち会社によるエッセイ
プロであることは「向上心」を持つこと。「プロの条件は何ですか?」と、講師に質問したときの答えで一番しっくりきた。若いときに向上心を持つのは当たり前だが、ある程度仕事が出来るようになってからも向上心を持ち続けることがプロである条件だという話だった。
出版社から本書の話を持ちかけられた際は、思わず「誰がぼくに興味あるんですかね?」「ぼくの話で売れるんですかね?」という言葉が出たそうです。
たしかに、ディレクターといえども、いち会社員には変わりはありませんので、全く信じられない話だったのでしょう。
「好きこそものの上手なれ」という言葉がありますが、本書には、大好きなラジオの世界に飛び込んで、そこで向上心を持って取り組み続けた著者の姿があります。
決していまやりたいことが定まっていない人でも、本書を読んでそんな著者の姿を目にすることで、勇気づけられることと思います。
一方で、星野源やオードリーといった著名人の素顔も書かれていますので、そっちの方に興味がある人でも、本書は手にとって損はない一冊です。
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