【書評】『じぶん時間を生きる』

コロナ禍で自分自身と向き合ったという人は多いのではないか。今年に入りコロナも5類に移行され、新しい趣味を始めたり資格の勉強を始めたなんて方も多いはずだ。人々は自分自身を振り返った結果、いったい何に気づき行動を起こしたのだろうか。本書はその「何に」をうまく言語化した本かもしれない。

本書はまさにコロナ禍を経て何かしらの行動を起こした人におすすめだ。自分がなぜその行動を起こしたのかその理由をあなたはうまく言語化できているだろうか。さらに、コロナによる深い内省を通して、私たちの仕事や生活はこれからどのように変わっていくのか。その答えが知りたい人は本書を読むべきである。

テレワークに移行して多くの人の働き方が変わった。
例えば、会議がオンラインに移行してからは参加者の招集がとても調整しやすくなった。これまでは大人数の会議になれば、移動などの調整もあって相当手間であったが、オンラインではカレンダーの予定さえ空いていれば簡単に招集することができる。
これはテレワークにより効率化された一例であるが、ではその効率化された時間を我々はどうしているかと言えば、効率化されて空いた時間は、他のオンライン会議の予定が入るだけという結果になった。
つまり、効率化された時間を自己投資の時間や家族との時間に当てているかと思いきや、全くそうではなくて、単純にオンライン会議の回数が増えただけなのだ。

本書では、資本主義にどっぷり浸かりその中で猛烈に働くことをラット・レースと呼んでいるが、本書の著者は紛れもなくこのラット・レースで消耗していたうちの一人であった。
東大法学部を卒業し、ソニーなどを経て起業した著者は、「時間が足りない・・」が口癖になるくらいに働き詰めだったという。そんな悩みを解決するために様々な効率化を図ったわけだが、どんなに効率化しても仕事は減らないどころか、むしろ仕事をやめられない「中毒状態」に陥った。
本書は、そんな体力も精神も極限まで追い込まれた著者が、そこから脱出するために実践した「じぶん時間を生きる」をテーマにした一冊である。

先ほどのオンライン会議のように、オフィス出社からテレワークに移行して大きく何が変わったのか。この点について、著者は出社型では暗黙の了解として「場に役立つ行動」をとることが求められたと指摘している

これまでの職場では、すでに場ができあがっていて、人々は「場に役立つ行動」をとることが求められる。つまり、周囲の「空気」が支配し、場の規範によって、自然に動くという「Outside-in型」の行動パターンだ。

周囲の「空気」を乱さないような行動を取るとは、まさに日本人らしいとも言える。
一方でテレワークに移行してからはどうなったのか?

自分がやりたいと思えない他人事の案件は、なかなか進まない。一方で、自分がやりたいプロジェクトはどんどん進む。進捗を左右するものが、場の「空気」から、個人の「内発的なモチベーション」に移行してしまっているのだ。

これには激しく同意だ。最近では、テレワークに移行して生産性が下がっているという指摘も多いが、もしかしたらこうした環境変化が理由の一つかもしれない。

余談であるが、本書の中で、著者は軽井沢に移住したことを明かしている。
移住したきっかけは、緊急事態宣言により、育ち盛りの子供達を部屋の中に押し込めて暮らす中で、この子達が東京で暮らすのが果たして本当に幸せなのだろうか?と疑問に思ったからだそうだ。同じように思った人は少なくないだろう。意外なことに、「家族の中で誰が移住に前のめりだった?」という質問をすると、「奥さん」という答えが圧倒的に多いという。ここから、移住して住まいを変えることは、仕事環境の変化よりも家事・子育ての変化の方が大きいことがわかる。

テレワークに移行してから、やらされている仕事や自分がやりたいと思えない案件は手が進まず、自分がやりたい案件はむしろパフォーマンスが上がっっていることを先に述べた。これは職種による向き不向きもあると思うが、大方当てはまるという方が大半ではないだろうか。

本書では、こうした傾向は仕事に関わらず私生活も同様になっていき、「やりたいこと格差」が生まれるのではないかと指摘する。つまり、やりたいことが明確にある人はどんどん自分で学び、アウトプットを発信するが、やりたいことがない人は、日々何も起こらないというものだ。

さて、ここまで読んだ人で「自分はやりたいことがない」と不安になっている人もいるかもしれない。だが、安心して欲しい。やりたいことはすぐに見つかるものではない。まずは見つけるための時間が必要で、それが本書のタイトルにもなっている「じぶん時間」なのである。「じぶん時間」とは何かは本書評では詳しく説明しなかった。ぜひ本書を手に取って確認していただきたい。

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koya
読書歴10年。書評歴3年。本は読んでいるだけではダメです。 知識はアウトプットしてこそはじめて血肉となります。 私は読書歴10年ほどで、現在は毎月平均して10冊程度の本を読んでいます。 私がこの10年間で培ってきた読書のノウハウや考えは、きっと皆さんの役に立つと思っています。 目標は「他人が読まない本を手に取る読書家を増やすこと」です。
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