【書評】『南極の氷に何が起きているか』南極の氷についてあなたは何ひとつ知らない

日本の面積の約40倍に及ぶ〝地球最大の氷〟こと南極氷床。
私自身、これまで「氷に覆われた大地」という程度の知識しかありませんでしたが、それは専門家も同じで、ほんの20年くらい前までは、南極については多くのことが知られていませんでした。
しかし、ここにきて人工衛星技術の進歩など、数多くの技術革新によって、驚愕の事実が知られるようになりました。
実は、南極研究はものすごい勢いで進化しているのです
本書は、氷床研究の第一人者である著者が、謎多き「氷の大陸」の実態を解き明かす一冊です。

なぜ南極の氷が溶けるのか?

そもそも南極の氷が溶けてなくなるとはどういうことでしょうか?
実はこの単純な問いに答えるには、「南極はなぜ厚い氷に覆われているのか」「氷河とはなにか」「南極の氷が増える要因と減る要因は」など、多くのことを理解している必要があります。
本書は、これらすべての問に対して、長年南極の氷の研究に携わってきた著者が一つ一つ丁寧に答えてくれます。
ですから、ここでは簡単に南極の氷が減少している理由について触れることにします。
南極の内陸では、冬の気温はマイナス60度以下で、夏場でもマイナス30度まで冷え込んでいます。
これほど冷え込んでいるにも関わらず、なぜ南極の氷が溶けるのでしょうか?
実は、南極の氷は溶けてなくなっているというよりも、海に放出されることでなくなっているのです
氷は、粘度の高いハチミツのような性質を持っており、十分に分厚くなった氷の場合、ハチミツが広がるかのように、標高の高い地域から低い地域に広がる動きをしています。
この流れが「氷河」と呼ばれる由来です。
本書では、近年、氷河の動きが「棚氷」と呼ばれるある特定の地域で急速にスピードを増しており、そこから海に放出される氷が増えていると言います。
その理由については、本書をぜひ読んでみてください。

南極の氷を測定する驚くべき技術

そして、本書で特に興味深かったのが、南極の氷を測定する技術の進歩です。
本書では様々な方法が解説されていますが、ここでは「GRACE(グレース)」と呼ばれる衛星による測定について紹介します。
誰でも地球上の物体には重力が作用していることは知っているでしょう。
GRACEが測定するのはこの重力の変化です。
実はこの重力は地球上の場所によって異なっているのです。
例えば、地下に重い鉱物が埋まっている場所では重力が大きくなり、逆にカルデラのように地表が陥没している場所では重力が小さくなります。
南極大陸においても場所により重力の差が生じています。
GRACEには、2つの機体があって一方がもう一方を追いかける格好で地球を回っています(2つの機体には名前があってトムとジェリーと言うそうです)。
2つの機体が南極の上空に差し掛かった際、場所によっては、前方の機体がより強い重力で引っ張られることにより、後方を行く機体との距離に差が生じます
2つ機体の間隔は東京から新潟くらいです。
そして、さきほどの重力の差による生じる距離はたった薄紙一枚分の動きです。
GRACEはこの薄紙一枚分の動きを測定することで、南極の氷の変化を明らかにしているのです。
本書はGRACE以外にも多くの驚くべき技術が紹介されています。

南極の氷に何が起きているのか

最新の観測技術によって、南極氷床の氷が減っていることが確認されていますが、一年で失われる氷の量は、氷床全体の10万分の1よりも小さいと言います。
南極の氷の減少に世界が注目していますが、実際、その変化は微々たるものなのです。
しかし、この量は、南極大陸における明らかな変化を知らせるのには十分です。
1900年〜2018年までの間に、海水準は18メートル上昇していることがわかっていますが、この海水準上昇に、南極の氷はたった15%しか寄与していません。
南極の氷が全て溶けた場合、58メートルもの海水準の上昇を引き起こします
このことが指し示すのは、南極の氷が本格的に溶け始めたら、これまでの比ではないほど、壊滅的な損害を地球上の生物に与えるということです。
本書を読めば、誰もが「南極について何も知らなかった」と思うことになるでしょう。

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koya
読書歴10年。書評歴3年。本は読んでいるだけではダメです。 知識はアウトプットしてこそはじめて血肉となります。 私は読書歴10年ほどで、現在は毎月平均して10冊程度の本を読んでいます。 私がこの10年間で培ってきた読書のノウハウや考えは、きっと皆さんの役に立つと思っています。 目標は「他人が読まない本を手に取る読書家を増やすこと」です。
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