SNSが普及し、私たちは今まで以上に自分より何かに秀でている人を見つけやすくなった。『映画を早送りで観る人たち』では、タイトル通り、流行りの映画を早送りで観る人々を筆頭に、努力をせずとも手っ取り早く得られる個性を模索する若者たちの様子が書かれている。現代の私たちはひっきりなしに何かを欲してはまた別の何かに目移りする日々を過ごしている。
なぜ私たちは性懲りもなく何かを欲してしまうのか?この欲望の裏側にはどんな理屈や法則が隠されているのだろうか?
哲学者ルネ・ジラールは「模倣の欲望」理論で、人が何かを欲しがる理由を明らかにした。それは「人は他人の欲しがるものを欲しがる。欲望はその人自身の内側からは湧いてこない」というものだ。
本書は、ピーター・ティールをはじめ世界中の起業家を虜にした「模倣の欲望」理論のエッセンスを、「25歳未満の起業家トップ25人」に選ばれた著者が解説する一冊だ。「自分自身の欲望は自分のものだ」と思っている人には、人生を変えるような一冊になるかもしれない。
欲望の正体とは、モデルだ。想像してみて欲しい。モデルはあらゆるところで見つかる。例えば、ファッション雑誌、テレビのコマーシャルなど、それこそ挙げ出したらキリが無い。しかし、モデルとなる人は、スポーツ選手や歌手、大物起業家といった人々ばかりではなく、たいていが「成功している姿を想像したくない」とあなたが思っている身近な存在である。ここが「模範の欲望」の落とし穴だ。ほとんどの人は、これが理由で、自分の欲望を直視することが中々できないでいる。そして、ついには、その欲望が自分の内から湧いてきたモノだと勘違いして、私たちを良くない方向へと導くのだ。
本書にはそのよくない例が載っている。それがトニー・ジョイが創業したザッポスというアパレル関連の通販会社で起きた事例だ。ザッポスは2009年にAmazonに12億ドルで売却されている。売却後、トニーはシリコンバレーのような起業家主導の生態系をつくりあげるため、ラスベガスのダウンタウンにおよそ3億5,000万ドルを投資するダウンタウン・プロジェクトを立ち上げた。そこでは肩書きは関係なく、皆平等な立場で何より自由であった。しかし、このプロジェクトは思わぬ失敗をおかした。自殺をする者が続出したのだ。
ダウンタウン・プロジェクトでは、一体何がいけなかったのだろうか?
ダウンタウン・プロジェクトでは、人間にはヒエラルキーが必要であることが蔑ろにされた。私ち人間は、常にヒエラルキーに沿って考える生き物である。日々のやることリストを作る時も、選挙の争点の優先順位をつける時も、レストランでメニューを眺める時もそうだ。そして、私たちはヒエラルキーがなければ、常に競争にさらされ精神が不安定になる。欲望を形成し、欲望に命令する価値のヒエラルキーがなければ、私たちは何にどのくらい注目すればいいのかすら考えることができないのだ。
ここから、近年の学校の運動会などにおいて、徒競走でも順位をつけないことがはたして正解なのかを考えるきっかけになる。つまり、順位をつけることが必ずしも悪いことではないことは、本書からも見て取れるだろう。そうすることで子供達は、欲望の模倣による争いから解放されるからだ。
冒頭でもいったように、SNSが普及したことにより、欲望の模倣は爆発的に広がり、自分自身の「欲望の裏側」を知ることはますます大事になっている。本書にはより良い欲望(本書では濃い欲望と言っている)を持つための具体的な方法についても記載がある。そちらを参考にして自分自身の欲望と向き合ってみることから始めると良いだろう。
欲望の模倣という意味では、こちらも興味深い内容だ。併せて読むことをお勧めしたい。
私による書評はこちら。
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